ある朝の風景


 キキィ…バタン。

 嗚呼、すご〜く嫌な音が背後から。

「日野じゃないか。もうすぐ坂だし、乗っていったらどうかな?」
 無視無視!この人に関わるとロクな事ないんだから!
 そのまま後ろからかけられる声を無視して歩き去ろうとしたら、
「そう…迷惑…だったかな…。ごめんね」
 ざわざわと周りの星奏学園音楽科女子の非難の声が聞こえてくる。

 「やだ…あの子、何?」
 「柚木サマにあんな悲しげな表情させるなんてサイテー」
 「酷いよね、私達なんて話し掛けることさえも出来ないのにあまつさえ断るなんて」

 こうなってしまったら餌食になる他ないと観念して手をとる。
「…ありがとう」
 手をつないだ瞬間にいつもの笑みが戻る、と同時にギャラリーの音楽科の女子達はそそくさとその場を立ち去っていった。
「まさか、お前がそういう行動をするとは思わなかったな」
 一通りギャラリーがいなくなったのを見ると、私に向かってぼそっとそう呟いた。
 だから嫌なのよ!いっつもいっつも学校に着くまで車の中でさんっっざんからかわれるんだから。

「今日はどうして僕を無視したのか教えてくれるかな?」

 …始まった、責問。こうなったら学校着くまでシラを切りとおすしかないと心に固く誓う私……なんだけど、

「何故無視したのか教えてくれ、と言っているんだけど?」
 段々本性が現れてくる…本性が現れたら少し(強調)怖いけど、でも無視の理由を言った方が怖いような気がする。
 柚木先輩がいる方とは別側の窓から外を眺める素振りをする。
「あくまで言わないという事かな?…それならこっちも考えないでもないんだけどね…」
 冷汗が出てくる、どうやっても何をしてもとめられない…!もの凄い悪寒が背筋に走る。振り向く事さえしたくない……
「お、降ります!降ろして…」
 勢いをつけて言おうとした私の口を柚木先輩の細くて大きな手が塞ぐ。
「運転手は俺と長い付き合いだからね、俺が言わないと車は止めないぜ」
 口を塞がれてもがいている私を無視してあの不敵な笑みをうかべながら目線は運転手を見て、だけど耳元で囁く。
「っ!!?」
「もう逃げ道はないんだから話してしまったらどうかな?」
 トドメをさされても理由を言ってしまった方が怖いような空気が流れていた。
 理由によっては何されるかわからないという事で、だけど言わなくても何されるかわからない空気が流れていて、
 全身嫌な汗がとめどなく流れてくる。
「ねぇ…強情なのは嫌いじゃないけれどね、今は俺の納得する理由が欲しいんだよ」
 さり気なく自分の納得する理由を強調されたような気がする…。
 ここまで言われてしまったらきっと嘘の理由を考えなければいけない。でも、一体どうすれば…。
 こんな狭い車の中でさらに密着しているだけでも思考が狂わされるというのに嗚呼、助けて、神様…!
 ついに痺れをきらした柚木先輩がおそらく自分の方に向かせようと手を伸ばした瞬間…

 キキィ。

 静かに車が止まった。
「着きました」
 柚木先輩とのこの状況を見ても慌てず騒がず冷静に言う運転手に少し驚くものの、神様は私を見放さなかったらしい。
 無事この責問をくぐり抜けて、学校に辿り着いたようだった。
「そう…じゃあ、また帰り正門前で待っているから」
 そう言うと、車の扉を開けて出て行く。
「来なかったらどうなるか…わかっているよな?」
 くるりと振り返って呟いた台詞は車を出た瞬間の優しげな表情とは全然違う冷汗モノの表情で言った。
「……」
 何も言葉で言い返すことが出来ずにただその場は頷いた…けど、誰が放課後行くものですか!と固く心で誓ってみた。
 ここの所ほぼ毎日行きも帰りも柚木先輩と一緒な気がして、いつもからかわれて…
 ついに堪忍袋の尾が切れてみたのに結局敵わないのかもしれない。

 だけど小さい抵抗でもしてみせると決めた以上は今日は何をしてでも帰ってみせる。

 そう心で誓ってはみたものの、見事香穂子のささやかな抵抗は放課後になり破られる事となった。

「日野さ〜ん!」
 放課後になるや否やそそくさと帰ろうとした私の元に数人の女子達が集ってくる。
 また柚木ファンクラブの人達に嫌味やら何やらたらたら言われるのかと思ってぐったりと肩を落とした瞬間、
「柚木サマが少し遅くなるから待っていてくれって伝えてくれないかって言われたから」
 いくらなんでもたったそれだけを伝えるだけに少し派手すぎやしませんか?な数だったけれど、それは言わずに頷いた。
「じゃあ、伝えたから」
 一番先頭にいた女の子がそう言うと、くるりと振り返り女子集団は去って行った。
 …これは遠まわしに 帰ったら今の子達から攻撃を受けるのはわかりきっている事だよね と言うような感じにもとれた。
 だけど今度は行きじゃない、帰りだから時間はいくらでもある。
 それにきっとあの人の事だからいくら遅くなろうともいつの間にか私の親にちゃっかり連絡しているハズ…。
 だとしたら…

 ダッ。

 いつの日にか見つけてしまった(多分)誰も知らない秘密の抜け道を通る事を決意する。
 結構獣道的な場所で普段は生徒でもあまり近づかない場所だった。
「……」
 走っている最中に後ろから何か視線を感じたような気がするけどまぁ気にしないという事で走りつづけた。

 どうやら無事に学校を抜けることが出来たらしい。車が通る大通りに出た。
「日野様ですね」

 ビクゥッ!!

 後ろから声をかけられる、どうにもこうにも聞いた事のある声。
「今連絡が入りましてこちらを通って日野様をお迎えしてから来いと言われまして」
 にっこり笑顔で言う運転手さん。やっぱりさっきの視線は先輩だったのかと今更ながらに思う。
「さ、どうぞ」
 ベンツを車道の横に止めて丁寧に扉を開けてくれる…が、
すごく乗りたくない
「ご、ごめんなさい…えと、その、今日は親と約束をしていて…そう伝えていただけないでしょうか?」
 しどろもどろの言い訳だったが、運転手さんの次の台詞で見事凍り付いてしまった。
「先ほど親御様にご連絡を致しまして了解はいただいております」
 お前(先輩)はストーカーか!と一瞬叫びたくなったけどとにかく逃げるが勝ち。
 にこにこ笑顔の少し歳のとった運転手さんを後に即座に走り出す…と、その時。

 
天は私を見放した。(涙)

「正門前で待っていてと伝えたのを聞いていなかったのかな?」
 営業スマイルで登場の柚木先輩。だけど私を掴む手の力は半端じゃないんですけど(泣)
「いや、その、私天羽さんと約束していて…」
「天羽さんなら今日は報道部でまだ学校に残っているよ。聞いていなかったの?」
「あ、そ、そうなんですか…それじゃあ」
 失礼します、と言って走り去ろうとしたものの、手は掴まれたまま。
「それじゃあ、、、で?何所に行くのかな?」
「ど、何所でしょうねぇ」
 もはや苦笑しか出てこなかった。
「さぁ、朝聞けなかった理由を聞きたいからね。車の中でゆっくり話をしようか」
 ものすごくゆっくりの部分を強調された気がする。

 そして、半強制的に車に乗せられた香穂子がその後どうなったかは…当人達(と運転手)だけが知っていた。


 翌日早朝。


 さすがにこんなに朝早くには来ないわよねと家を出た時間は朝の7時。
 この時間なら車で学校に行ったならばおそらく7時10分には着いてしまうだろう。
 こんなに朝早ければ柚木は通らないと呼んでいた香穂子だったが…

 キキィ…バタン。

「やぁ、おはよう。今日は随分と朝早いんだね」
 昨日はぐっすりと眠れたからかな?と、香穂子にとっては赤面モノの台詞で登場。
「昨日は無理をさせてしまったからね…ここの坂はきついだろう?さ、乗って」

 そしてまた、今日も学校までの短い時間柚木にとっては楽しく香穂子にとっては辛い時間が始まったのだった。


終わり(エンドレス?)

 ++後書き++

すみません、本っっっ当にすみません!!すごく似非ですね(滝汗) しかも微妙にダーク風味…(汗) 初のコルダ創作が…
アンジェや遙かの小説の方が内容的には書きやすい事が判明しました…あまりに普通すぎて難しいです(笑)
日常の風景を表現するというのは本当に難しいですね。真面目に勉強になります。

最初は甘々兼嫉妬有りの微エロギャグ小説(何じゃそりゃ)を目指していたんですけどただの微エロ少し黒風味創作に(涙)
黒風味になるのはいつもの事と思って流して下さると嬉しいです(;_;)でも私の中では微エロ有りの甘々?です(爆)
それにしても、柚木さん、エセですね(滝汗) ごめんなさい、もっと喋り方とか色々勉強します。
是非柚木さんとLLEDが見れた際には、ラブラブ創作の一本や二本は書きたいと思っておりますので宜しくです♪

この小説は本館と同盟の両方に載せておりますのでお戻りはブラウザの"戻る"よりお願い致します。

"ある朝の風景"の背景は様よりお借りしました。





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